126号 2008年 秋

機関誌
ミャンマーで得度式を迎える少年たち
兵頭 千夏

メキシコの夢
マヌエル・ヒメネスとゆかいな木彫りたち

冨田 晃

アメリカ合衆国において、出自に関係なく成功していくことを「アメリカン・ドリーム」といい、アメリカに移住してきた人びとが困難を乗り越えて成功にいたる物語が多くの小説や映画で描かれてきた。そのなかでは、「移民」というよそ者の立場を抜けだし「アメリカ人」として、のちの生涯をおくることが「幸せの形」と語られてきた。

ただし、この成功譚には、「アメリカのみが豊かな国であり、そこに暮らすことこそが人間の幸せなのだ」という固定観念が隠されている。 人間の幸せとは何か。

アメリカで成功を得ながらも、生まれ育ったメキシコの小さな村にもどり、もうひとつの夢「メキシカン・ドリーム」をはたした一人の男の人生を通じて、人間の幸せと現実の世界構造について考えてみたい。

ブルガリアの「色彩豊かな」村
ポマク女性の装いと暮らし

松前 もゆる

ブルガリアには、「ポマク」と呼ばれるムスリムの人びとがいる。彼らは、自分たちの村のことをしばしば「色彩豊かな」「色鮮やかな」と表現する。 それは、村での伝統的な衣服であるシャルヴァリやスカーフの華やかな色柄に由来している。 これらの女性の装いは、近代以降の国家政策のなかでナショナリズムやイデオロギーと複雑にかかわりあい、規制をうけてきた。

1989年の社会主義体制の崩壊を契機に、シャルヴァリやスカーフは復活したが、着用することによって身内の男性たちの後進性を表すなど、さまざまな意味合いをもつ。 一方、結婚の際には欠かせない贈答品とされ、女性たちの関心事としての側面も依然としてもちあわせている。 ポマク女性の装いから、伝統のあり方、服装をめぐる社会性とアイデンティティを考える。

朝食に暮らしあり13
タマレスとチョコラテ
鈴木 紀

シリーズ 万国喫茶往来
第2回 消えたサモワール(ロシア)
文・沼野 恭子
写真・大村 次郷

チロルの祭り
オーストリア、アクサムス村のヴァンペラーライテン

小谷 明

再見細見世界情勢11
メキシコの先住民運動
サパティスタ14年の歩み
柴田 修子

海人万華鏡第13回
海を潜るその日、その日
living day by day beneath the ocean`s surface
文・あん・まくどなるど
写真・礒貝 浩

ミャンマー
民族衣装の華やぎ

兵頭千夏

多民族国家のミャンマーには100以上もの少数民族が存在する。 ビーズやコインを縫いつけた刺繍が見事なアカ族、派手なターバンが目をひくパオ族、黒衣に銀細工が映えるカチン族、細い真鍮を首に巻きつけたパダウン族、顔に刺青を施したミンダ・チン族など。

衣装だけでなく、装飾品、化粧、髪型や髪飾りも含むその装いからは、独自の美的センスが感じられる。 華やかで多彩な衣装を人びとの暮らしとともに紹介する。

本で会いましょう25
『他者の帝国』
新大陸発見から現代にいたるインカの実像を多角的に分析
関 雄二さん(インタビュー)

書架はいざなう
学者マンガ家が薦める文化人類学的マンガ
都留 泰作

国立民族学博物館ミュージアム・ショップ通信

【地域(国)】
東アジア(日本)
東南アジア(ミャンマー)
東ヨーロッパ(ブルガリア、オーストリア)
ロシア
南アメリカ(メキシコ)

125号 2008年 夏

機関誌
マンチェスターの戦争記念博物館のカフェテリアで
大村 次郷

新シリーズ 万国喫茶往来
第1回 紅茶とコーヒー
「紅茶の国」イギリス

文・川北 稔
写真・大村 次郷

1杯の飲みものにより、人は心身を癒し、そして人と人のあいだに会話をうみだす。世界各地の人びとは、どんなものを、どんなときに、誰と飲むのだろうか。

人とモノの流れが拡大し、さまざまな社会変化が急速に進む現在、それぞれの地域の喫茶習慣はどのような影響を受けているのか。

変わったもの、変わっていないもの、最新の喫茶事情を紹介するとともに、1杯の飲みものがうみだす空間を通して社会を考察する。 第1回は、紅茶文化が、少子・高齢化やライフスタイルの変化によって急速に変わりつつあるイギリスを紹介する。

タヒチのタタウ
文化復興とグローバル化をめぐって

桑原 牧子

タヒチ語で「タトゥー(刺青)」を意味するタタウの習慣は、1830年代にキリスト教宣教師によって禁止された。しかし1970年代、欧米での流行とともに復活し、80年代の太平洋諸国の独立にともなう民族アイデンティティの再構築と文化復興運動により、タヒチの伝統文化として再認識されている。

朝食に暮らしあり12
1460回の朝食
セネガルの暮らし
三島 禎子

サウディ・アラビアのラクダ・レース
現代に浮かびあがる、アラブ社会のネットワーク

縄田 浩志

サウディ・アラビアで年に一回おこなわれる文化祭典「ジナドリーヤ」。そこでは、大規模なラクダ・レースが開催される。ラクダ・レースにかかわる人とラクダの背景を見ていくと、アラビア半島とアフリカ大陸の、紅海をはさんだアラブ社会の交易ネットワークが浮かびあがってくる。

朝メシ前の人類学
フィールドでうまれる対話 第5回
子どもたちの眼って、どうしてあんなにキレイなんでしょう?
文・松田 凡
写真・水井 久貴
絵・中川 洋典

海人万華鏡第12回
海の彼方をめざして 星と風に導かれる海人
living beneath the stars navigating the oceans
文・あん・まくどなるど
写真・礒貝 浩

世代文化を考える
韓国の三八六世代とは何か

太田 心平

1980年代、韓国の民主化運動において牽引役として活躍した世代は、今も政治をはじめ社会に影響を与え続けている。この世代を「三八六世代」と呼び、独特の世代感情をもつ人びととして異化している。韓国において「世代」がどのような意味をもつのだろうか。

本で会いましょう24
『女乗物』
保存科学の手法で探る華麗な装飾の実態
日高 真吾さん(インタビュー)

書架はいざなう
読んで旅するインドの時空
三尾 稔

国立民族学博物館ミュージアム・ショップ通信

【地域】
東アジア(日本、韓国)
西アジア(サウジアラビア)
南アジア(ネパール)
オセアニア(フランス領タヒチ)
東アフリカ(エチオピア、スーダン)
西アフリカ(セネガル)
西ヨーロッパ(イギリス)

124号 2008年 春

機関誌
チュクチの子どもたち
文/写真・関野 吉晴

特集 ロシア北方の民
ソ連崩壊後の激動期を経て

ソビエト連邦による社会主義時代とその崩壊を経て、多大な変化に見舞われた旧加盟諸国。

なかでも、シベリア・ロシア極東地域の先住民など、大きな社会基盤をもたない少数派は、拠りどころのないまま、時代の波に激しく翻弄された。ウデヘ、エヴェンキ、チュクチ、ネネツ、サハ、トゥバ、ブリヤート、カレリア、そして17世紀に宗教改革を逃れてシベリアへ渡ってきたロシア人たち。各民族の社会はどのように変容したのか。そして今、どのような活路をみいだしたのか。

政治経済、開発と環境保全、文化復興、宗教をキーワードに、北方先住民の社会と人びとが抱える問題に焦点をあて、ポスト社会主義の現状を追う。

序論 シベリア、極北、極東地域の今
文・佐々木 史郎

エヴェンキ トナカイ飼育の崩壊と狩猟への転換
高倉 浩樹

チュクチ ベーリング海峡のクジラ猟企業の再編
池谷 和信

ネネツ 経済自由化にともなうトナカイ牧畜とその変化
吉田 睦

ウデヘ 企業経営による狩猟と森林開発
佐々木 史郎

カレリア 村落における市場経済化経験
藤原 潤子

ブリヤート 宗教「復興」と青年組織
渡邊 日日

極東の古儀式派教徒 信仰を守る熱意とその困難
伊賀上 菜穂

サハ 鳴り響くホムス
荏原 小百合

トゥバ 喉歌フーメイをめぐる歴史
等々力 政彦

総括 周辺化された人びとのポスト・ポスト社会主義
文・佐々木 史郎

朝メシ前の人類学
フィールドでうまれる対話 第4回
これって高いんでしょうか?
文・松田 凡 写真・水井 久貴
絵・中川 洋典

再見細見世界情勢9
大統領辞任後のフジモリとペルーをめぐる情勢
村上 勇介

海人万華鏡第11回
海唄とともに生きる
living from the sounds of the ocean
文・あん・まくどなるど
写真・礒貝 浩

朝食に暮らしあり11
華人の移動とマレーシア料理
市川 哲

大インダス世界への旅
最終回 河口へ
数々の文明の興亡と現代パキスタン

船尾 修

チベットのカン・リンポチェ北西部に端を発したインダス川を巡る旅は、かつて王国が栄えた西チベットから「小チベット」ラダックを通り、いまもなお紛争が続くカシミールをかすめてきた。そしてヒマラヤに匹敵する高峰を抱えるカラコルムから、日本にも影響を与えた仏教美術を生んだガンダーラを経由して、農業と工業の栄える現代パキスタンを象徴する緑の大地パンジャーブに至る。

本で会いましょう23
『カナダ・イヌイットの食文化と社会変化』
急激な社会変化の波にのみこまれて 生きる道を模索するイヌイットの人びと
岸上 伸啓さん(インタビュー)

書架はいざなう
歴史と虚構の狭間のアレクサンドロス
山中 由里子

国立民族学博物館ミュージアム・ショップ通信

【地域(国)】
東アジア(日本)
東南アジア(マレーシア)
南アジア(パキスタン)
東アフリカ(エチオピア)
西ヨーロッパ(ポルトガル)
ロシア
南アメリカ(ペルー)

123号 2008年 新春

機関誌
村のバイオリン弾き
文/写真・鈴木 文恵

特集 ヨーロッパを逆照射する

写真・鈴木 文恵、星野 佑佳

ヨーロッパ。この地域では、過去幾度も統合と分裂が繰り返されてきた。 そして、二度にわたる世界大戦、東西冷戦を経た現在、高い経済力を追求する西ヨーロッパ主導の地域統合が進行し、いまやその範囲は、旧共産主義国はもとより、イスラーム世界までおよぼうとしている。 EUの拡大は、ヨーロッパ拡大と同義なのだろうか。そもそも「ヨーロッパ」とは何なのだろうか。 本特集では長い歴史を通して様ざまな関わりを有してきた「隣人」の視点から、統合を主導する西ヨーロッパを見つめ直す。

ギリシャ ヨーロッパとバルカンの架け橋
内山 明子

周辺国家の悲哀 ルーマニアの教会合同にみる西欧化の圧力
新免 光比呂

フーリガニズムと現代の戦争 セルビアにおけるアルカン伝説
文・佐原 徹哉

境界の国、エストニア
小森 宏美

北アフリカとヨーロッパ
宮治 美江子

ユダヤ人 ヨーロッパの「内なる他者」
文・臼杵 陽

ヨーロッパ統合時代のロマ UnionからForumへ
久野 聖子

朝食に暮らしあり10
台湾戦後史と朝食文化
木村 自

ケニアの民間開発
石田 慎一郎

チャム
チャンパ王国の末裔

吉本 康子

かつて「海のシルクロード」の中継地として、海上交易国家を築いたチャンパ王国。今もベトナム中部の平地には、チャンパ時代に築かれたヒンドゥー寺院が点在する。そのチャンパ王国の末裔であるチャム族の人びとは、ベトナムを中心に、メコン・デルタ、カンボジア、タイ、マレーシア、はては欧米にまで離散している。その多くはイスラーム教徒だが、故地であるベトナム中部南方では、ヒンドゥー教が土着の信仰とまじりあったバラモン教、それらにイスラームの要素がはいったバニ回教、スンニ派イスラーム教を信仰する集団が混在する。ひとつの民族でありながら他宗教の社会を形成するようになった歴史的経緯と現在の生活を紹介する。

再見細見世界情勢8
ミャンマーの混迷
政治対立の構造と今後の展望
伊野 憲治

海人万華鏡第10回
獲る漁業から育てる漁業へ 揺れ動く海水養殖
living through the pendulum swings
文・あん・まくどなるど
写真・礒貝 浩

大インダス世界への旅
第3回 もうひとつの世界の屋根 カラコルム

船尾 修

中央アジアとインド亜大陸を分ける大障壁カラコルム山脈。「世界の屋根」の別名をもつヒマラヤに匹敵する高峰を有する「もうひとつの世界の屋根」である。そのふたつの世界の屋根にはさまれた狭い谷間をインダス川は西へと向かい、無数ともいえる氷河から溶け出した白濁した流れを途中で受けとめる。

本で会いましょう22
『東南アジア年代記の世界ー黒タイの「クアム・トー・ムオン」』
社会主義時代に断絶した民族の伝承が国家の歴史に
樫永 真佐夫さん(インタビュー)

書架はいざなう
神社を訪ねて
八杉 佳穂

国立民族学博物館ミュージアム・ショップ通信

【地域(国)】
東アジア(日本)
東南アジア(ベトナム、ミャンマー、パキスタン)
西ヨーロッパ
東ヨーロッパ(ギリシャ、ルーマニア、セルビア、エストニア)
東アフリカ(ケニア)
北アフリカ(チュニジア)