118号 2006年 秋


イヌピアック・エスキモーの女の子
八木 清

オーストラリア交通事情

文/写真・久保 正敏
文・堀江 保範

日本の約二〇倍の面積を持つオーストラリア大陸。その膨大な距離を克服しようと英国植民地は、通信・交通インフラの整備を進めてきた。それは、地域の様々な産業を展開させると同時に、インフラ構築や産業展開に伴う労働力として各国からの移民流入を促し、多文化国家オーストラリアを形成する大きな要因となった。それはまた、先住民アボリジニと白人との接触の機会を増やし、白人社会による民族学調査を進展させるとともに、アボリジニ社会にも大きな変化を引き起こした。

本稿では、オーストラリアの社会と文化に変化をもたらした要因の一つとして交通の歴史を見ていくが、特にアウトバックと呼ばれる地域における、南北縦断鉄道、それを補完しライバルとなったロード・トレイン、航空機のユニークな活用としてのフライング・ドクター・サービス、の三つを取り上げる。

・アウトバックの距離を克服する
・距離克服の前史 アウトバックの開拓
・大陸縦断鉄道 大陸をつなぐ夢
・ロード・トレイン ミッシングリンクをつなぐ鉄道のライバル
・フライング・ドクター・サービス アウトバックの人びとを守る

 

北アメリカ先住民社会の現在

岸上 伸啓ほか

北アメリカの先住民とはかつて「インディアン」や「エスキモー」とよばれていた人びとだ。西部劇を見たことのある人は、鳥の羽根でつくられた頭飾りをつけ、武器を片手に持ちながら馬に乗っている勇壮な「インディアン」の姿を思い起こすのではないだろうか。 一方、「エスキモー」といえば、毛皮でつくった服を着て、イヌゾリで氷原を移動し、生肉を食べ、夜には雪の家で寝るといったイメージが人口に膾炙しているのではないだろうか。これらのイメージは、必ずしもまちがったものとはいえないが、現代の北アメリカ先住民の生活の実態とはほど遠いものである。

われわれ日本人は、米国やカナダについてよく知っているつもりである。しかし、そこに住む先住民についてはあまり知らないというのが現実であろう。この特集では、現代の北アメリカ先住民とはどのような人びとで、どのような生活を営んでいるかを紹介する。

【地域(国)】
東アジア(日本)
南アジア(バングラデシュ)
オセアニア(オーストラリア)
南アフリカ(南アフリカ)
北アメリカ(アメリカ、カナダ)

117号 2006年 夏

機関誌
タウデニの塩鉱
文/写真・大塚雅貴

タウデニ
サハラに舞う塩の宝庫
塩の道を行く

文/写真・大塚 雅貴

360度、見渡すかぎり続く砂の大地。すべてのものから水を奪う熱い太陽、そして蜃気楼によって揺れる地平線。日本の国土のおよそ24倍、9065000平方キロメートルにおよぶ世界最大の砂漠、サハラ砂漠でいまも活躍するラクダ・キャラバンがいる。それは、塩をラクダに載せ、タウデニ―トンプクトウ間の往復1500キロメートルの道のりを約40日かけて歩き続ける男たちの苛酷な仕事だった。わたしは2004年10月、このキャラバンを取材するため、これまで内戦などの影響で長い間立ち入りが規制されていた、西アフリカ、マリ共和国の中部トンプクトウへ向かった

サハラの塩鉱、その過去と現在
文・南里 章二/写真・大塚 雅貴

サハラにおける塩の採掘と輸送は、数百年前から現在に至るまで変わりなく継続している。苛酷な自然状況下、その時折のさまざまな歴史を背負いながら、この地の人びとは営みを続けてきた。近代化が進むなか、酷暑の大地に生きる人びとの将来像を考える

ワールドサッカー
ふたつのフィールド

サッカー・ワールドカップ、ドイツ大会では、さまざまなドラマが繰り広げられ、人びとを熱狂させた。しかし、サッカーというスポーツの「草の根」は思いのほか深く、本大会に出場できた国はそのごく一部にすぎない。イギリスで制度化されたサッカーが、どのようにして世界じゅうに広がり、地域や民族のそれぞれの事情に応じて受容され、楽しまれてきたのか。サッカーのコートである「フィールド」を、調査地、取材地としての「フィールド」から探ると、いったいどんな事情がみえてくるのか。ふたつのフィールドを知る研究者、取材者が知られざる世界のサッカーの実像を紹介する

 

 

踊る路上の聖人
ストリートから広がるフィリピンの聖像崇拝の生活風景

文/写真・川田 牧人
写真・杉浦 正和

フィリピン、ビサヤ地方の人びとの生活は、カトリック聖像とともにある。フィエスタでは、人びとは聖像とともに祝い、踊る。宗教行事の枠組みを超え、自己表象のよりどころの一つとなりつつあるフィリピンのカトリック祭礼の様相をみる

動的宗教としてのイスラーム
現代エジプトのスーフィー教団

新井 一寛

エジプトにおいて隆盛を誇ったスーフィー教団は近代化の過程で変容し、影響力を失いつつ会った。しかし現在、「正しい」イスラームを求める人びとに応えるかのように「新たな」スーフィー教団が登場し、支持を集めている

116号 2006年 春


サマルカンド、シャヴスキー市場
文/写真・大村次郷

特集 アム・ダリヤに魅せられて
中央アジアと加藤九祚

文・加藤 九祚
写真・大村 次郷

君は、はるばる日本からやって来て、スルハンダリア地方の古いダルベジン・テパやカラ・テパで考古学的発掘に従事している加藤九祚氏について聞いたことがあるかもしれない。彼の犠牲的精神に富む、広範な知識は、われわれの歴史全体や古代の遺跡を含むのみならず、文化的・精神的遺産に関しても深い理解を示している。加えて、これらの事物を外国の人びとに伝えることに大きく貢献し、また、ウズベキスタンと日本両国の学問的関係を発展させることにおいても実りおおい成果をあげたことにより、ウズベキスタン共和国の大統領令に基づいて〈友好〉勲章をさずけられた。ウズベキスタン小学六年生、公民教科書に掲載された加藤九祚先生の紹介(『VATAN TUYG`USI 6』 2002)

ホラズムとメルヴの旅
文・加藤 九祚
写真・大村 次郷

中央アジアの砂漠地帯を流れる大河アム・ダリヤ。古来、流域の人びとの暮らしに潤いを与え、多様な勢力の衝突点ともなってきた。古代からの人びとの営みに思いを馳せつつ、環境破壊が深刻な河口の地、アラル海を目指して旅を続ける

対談 あくなき探求心 シベリアからカラ・テパへ                 対談・加藤 九祚×帯谷 知可
写真・大村 次郷

加藤九祚氏のように遠いふるさとからやって来て、ウズベクの田舎で学問的探求にたずさわっている学者は稀だろうか?この人物は、われわれの国や人びとを心から愛しており、われわれの母国語を自由に話すことができ、われわれの歴史についてどんな人とも議論をたたかわせるだけの知識があり、そしてわれわれの国を高く評価し、尊重している。ウズベクの人びともまた、彼を敬愛するがゆえに〈ドムラ(先生)〉とよんでいるのだ。

 

琵琶湖周航
丸子船船頭と船大工の世界

文・出口 晶子
写真・出口 正登

近世より引き継がれた琵琶湖の丸子船水運。二〇〇一年、最後の船頭が船を降り、二〇〇六年、丸子船を手がけた棟梁は九三歳をこえた。舟運を通してつむがれた生活世界は、近現代のウミ・山・里のネットワークの伸縮を映しだす。人の語りに耳すそ、湖うみの水際みぎわに足はこぼ、山のかなたへ手をかざそ。

 

異貌の神は火の大地から生まれる
文・遠藤 ケイ
写真・飯田 裕子

パプアニューギニアの、ニューブリテン島ラバウルで、年1回開かれるマスク・フェスティバル。民族ごとに、独自の化粧と装いをこらした人々は。夜更けまでかがり美を囲み、熱狂の唄と踊りを繰り広げる。密林の化身のような草簑と、色とりどりの化粧、仮面、羽根飾り。見る者を興奮と陶酔の渦に巻き込むその風貌は、超自然的な力への畏れが生みだした想像力の産物なのか

【地域(国)】
東アジア(日本)
東南アジア(パプアニューギニア)
中央アジア(ウズベキスタン、トルクメニスタン)

115号 2006年 新春


開封の酒店で働く女性
文/写真・大村 次郷

特集 中国を知る
社会と文化を読み解く48のキーワード

伝統文化はもとよりファッションや食事、IT事情から映画まで、現代中国が抱える社会問題と現象を48のキーワードに分け、文化人類学者23名が読み解きます。生活レベルに密着した視角、迫力あるカラー写真で等身大の中国像を提供します。 日中関係は「政冷経熱」と言われ、とかく政治や経済の側面ばかりがクローズアップされています。現地調査に基づく民族学者たちがとらえた中国像は偏りのない中国論として、学校での授業の参考に、またひろく市民の方々にお読みいただくことは、真の国際理解に役立つことと思います。

 

暖をとる人々・アイルランド編
「大地の火が燃える」

遠藤 ケイ

アイルランドは、遙か紀元前から度重なる異民族の侵略と支配を受けながら、一度も負けていないと言い切る。誇り高きアイリッシュの魂は、特異の哀切と幻想世界を内に秘めながら、過去から未来に命を引き継いでいく。その足の下には、氷河期に埋まった樹木が悠久の眠りを経て、泥炭層としてぶ厚く堆積している。まさに大地が火となって燃える。大西洋に取り残された辺境の島の人々は、その火に寄り添って生きてきた。そこには、原始の火と人の暮らしの関わりを考え直す原点がある

国立民族学博物館ミュージアム・ショップ通信

【地域(国)】
東アジア(日本、中国)
北ヨーロッパ(エストニア)
西ヨーロッパ(アイルランド)