季刊民族学185号 2023年夏

特集 ビーズ大陸 アフリカ

 アフリカは、およそ30 万年前にホモ・サピエンスの誕生した地であると同時に12 〜10 万年前に人類最古のビーズが生まれた地域の一つとして知られている。その後、アフリカにはインドやヨーロッパ産のガラスビーズが伝来し、世界のなかでユニーク、かつ多彩なビーズ文化が展開してきた。本特集では、ビーズ素材の多様性の広がり、ガラスビーズの導入過程、現代アフリカにおけるビーズの役割など、ビーズを通してみえてくるアフリカ社会の過去と現在を紹介する。

目次
000 表紙「若き日の恋愛の記憶を刻むビーズの首飾り」写真:中村香子(東洋大学教授)
001 目次
002 表紙のことば 文:中村香子(東洋大学教授)
003 特集「ビーズ大陸 アフリカ」
004「ビーズからみた新たなアフリカ文化史」池谷和信(国立民族学博物館教授)
014「ビーズからみたナイル川流域世界――エジプト、スーダンにおける過去と現在」遠藤仁(大東文化大学東洋研究所兼任研究員)
020「発掘が物語るアフリカのビーズ」竹沢尚一郎(国立民族学博物館名誉教授)
026「スタンリのビーズ――19世紀アフリカ大陸東部の探検、交易、植民地支配」鈴木英明(国立民族学博物館准教授)
032「サンブルの恋愛とビーズ装飾」中村香子(東洋大学教授)
038 「ビーズ細工を仕事にする――ナイジェリア南西部ヨルバランドで生きる人びと」緒方しらべ(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所フェロー)
044「ナミビアのヒンバの儀礼とビーズ――ヘレロとの関係から」宮本佳和(東京外国語大学現代アフリカ地域研究センター 特任研究員)
050「出稼ぎするアーティストたち――南アフリカのワイヤー・アンド・ビーズ・アート」北窓恵利香(ワイヤー・アンド・ビーズアーティスト ZUVALANGA)
057「世界に発信するアフリカンビーズ」池谷和信(国立民族学博物館教授)
064「ビーズ展、日本列島を駆けめぐる――民博からビーズの魅力を発信」池谷和信(国立民族学博物館教授)
071 小山修三前理事長を悼む――アボリジニ研究の推進と縄文学の提唱
「オーストラリア研究の今西錦司になる」窪田幸子(芦屋大学学長・神戸大学名誉教授)
「三内丸山遺跡と小山修三」岡田康博(三内丸山遺跡センター所長)
080「キツネザルと人の2000年」市野進一郎(国立民族学博物館特任助教)
088「もうひとつの農業――ネパール、インナータライの農の営みに学ぶ」藤井牧人(農業従事者・在ネパール)
096 連載 フィールドワーカーの布語り、モノがたり 第3回
「女性の生活が変われば、布も変わる――ウズベキスタンの刺繡布とスザニ」今堀恵美(東海大学文化社会学部アジア学科講師)

編集後記

 「バタフライ効果」ではないけれど、森羅万象は相互に関係し合い、それが歴史を形成する。あたり前のことのようですが、そういいきるには、該博な知識と事象の背後を見通す洞察力が必要です。わたしの管見する範囲で、古いところでは、米国議会図書館長を務めたダニエル・ブーアスティンの『大発見』(一九八八年)、進化生物学者ジャレド・ダイアモンドの『銃・病原菌・鉄』(二〇〇〇年)、近年では、『ビッグヒストリー』(二〇一六年)など、地球史を幅広い視野で語る著作も多々目にします。『サピエンス全史』(二〇一六年)など歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリの著作群、最近では、バリバリの理論物理学者ブライアン・グリーンによる、宇宙の誕生から終末までを、エントロピー増大と局所的減少という観点で解説する『時間の終わりまで』(二〇二一年)も刊行されました。
 こんな話をするのは、今号の特集で人類発祥の地アフリカのビーズにみられる美意識やアイデンティティなど情報を運ぶ機能、そして交易にともなう諸々の物流が語られているからです。コミュニケーションという語は、一七世紀後半までは情報流と物流の両者を指したとされます。ビーズはまさに、人類史上の重要なコミュニケーション・ツールのひとつといえましょう。
 ヒトのコミュニケーションは、特異な進化をとげた言語能力に依拠しています。ハラリによれば、ヒトが高度言語能力を獲得した「認知革命」は約七万年前とされますが、それ以前、との説もあります。地質学者の丸山茂徳氏の『地球史を読み解く』(二〇一六年)によると、高放射性元素マグマの集中的な地上噴火が七〇〇万年前、一八〇万年前、六〇万年前、二〇万年前にアフリカ大地溝帯で起き、生物の遺伝子変異を増やし、進化のジャンプを促した、といいます。ヒトの染色体上でみつかった、言語能力に関する遺伝子は、放射線による突然変異の結果かも知れません。小さなビーズによるコミュニケーションが、地球内部の大規模熱循環につながるかも、と考えると、愉快ですね。
 他方、ネパールの農を淡々と語る藤井牧人氏の論考では、グローバル化が行きすぎて世界の食料システムの破綻が近いとされる今日、地産地消の循環型経済の原点をみる思いがして、衝撃の結語とともに、心に響きます。
(編集長 久保正敏)

 

2023(令和五)年7月31日発行
発行所:公益財団法人 千里文化財団

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