理事長徒然草(第15話)
シンポジウム「人類・いのち・万博―1970から2025に向けて」をふりかえって

2021年11月23日(祝日、火)午後1時から、日本万博記念公園シンポジウム2021「人類・いのち・万博―1970から2025に向けて」が国立民族学博物館のみんぱくインテリジェントホール(講堂)で開催されました。当財団が主催し、国立民族学博物館、大阪府、公益財団法人関西大阪21世紀協会が共催に名を連ね、公益財団法人2025年日本国際博覧会協会の後援を受け、大阪モノレール株式会社と万博記念公園マネジメント・パートナーズの協力を得ました。会場の聴衆は115名、オンラインの視聴者は161名でした。

開催にあたり、わたしのほうから主催者挨拶として、70年万博の開催地で2025年万博に向けて「人類・いのち・万博」をテーマに未来につなげる橋渡しの機能を担うという趣旨を簡単に述べました。そこで強調したのは次の2点です。ひとつは公益認定を受けた当財団が「地域の文化活動」に資する公益事業を推進していくという決意です。もうひとつは、京阪神の3都市が千里で手をむすびあい、関西全体の国際文化都市化を促進することの意義について、梅棹忠夫(民博初代館長)の発言を引用して言及したことです。さらに、このシンポジウムを端緒とし、毎年、議論を積み重ねていくことも表明いたしました。

登壇者は吉田憲司氏(国立民族学博物館長)、西尾章治郎氏(大阪大学総長)、ウスビ・サコ氏(京都精華大学学長)、山極壽一氏(総合地球環境学研究所所長、前京都大学総長)、井上章一氏(国際日本文化研究センター所長)の5名でした。まず吉田館長が「シンポジウム開催にあたって」という発題をし、それを受けて4名の演者がそれぞれの立場から提言をおこないました。その詳細は『季刊民族学』180号(2022年4月発行)の特集にゆずるとして、ここでは印象に残ったいくつかの点について簡単に報告しておきたいと思います。

まず2025年の万博開催の意義について、①参加国との協働・共創作業の場(吉田)、②大学間のグローバルな共創(西尾)、③ユーロセントリズムではない共創のあり方(サコ)、④ヒト中心ではない「いのち」と「いのち」のつながり(山極)など、ともすれば開催国やいわゆる先進国を中心に企画・推進されがちな国際的な博覧会に警鐘を鳴らしたことが注目されました。その一方、万博自体にオリンピックと比べても訴求力が弱くなっているとの指摘がなされました(井上)。とはいえ、パンデミックにさいなまれている現状を打開し、「いのちかがやく未来社会」をどうデザインするかが問われているのが2025年の大阪・関西万博です。

パネルディスカッションでもさまざまなアイデアが飛び出し、活発な議論が絶え間なく繰り広げられました。ひとつのキー・フレイズは「壁を超える」であったかと思います。①京阪神の壁を超える、②ヴァーチャルとリアルの壁を超える、③オリンピックと万博の壁を超える、④人間と人間の壁を超える、⑤言語の壁を超える、⑥国家の枠組みを超える、等々。そこでの提案には、①都市をつなぐ万博(山極)、②地域をつなぐ万博(吉田)、③博物館がつなぐ万博(吉田)、④関西一円で実感できる仕組みをもつ万博(西尾)、⑤ドバイ万博ですでに始まったハイブリッドなつながり(サコ)、⑥フランチャイズが弱い野球のようなつながり(井上、山極)、⑦万博にe-sportsなどオリンピックを換骨奪胎して取り込む(山極)等々、奇抜なものも含め丁々発止のやりとりが続きました。

パネルディスカッションのファシリテーターをつとめた吉田館長は結びのことばとして、やや冗談交じりに、京阪神に奈良をくわえてその壁を壊さないと国の壁とか言っていられないと述べました。当財団がそうした役割を少しでも担うことができれば幸いです。 (2021年12月13日)