理事長徒然草(第8話)
「梅棹忠夫先生の生誕100年をむかえて」

 新型コロナウイルスの影響で世の中から活気が失われています。民博も3月いっぱい休館となり、当財団の運営するミュージアムショップもほぼ休業の状態です。何か明るい話題はないでしょうか。

 ひとつは、本年が梅棹忠夫先生の生誕100年にあたっていることです。民博では企画展「知的生産のフロンティア」(2020年4月23日~6月23日)が予定され、今のところ延期されてはいません。「知的生産」とは言うまでもなく梅棹先生のベストセラーにしてロングセラーの『知的生産の技術』(岩波新書、1969年)に由来しています。企画展では東南アジア紀行までのアーカイブズが紹介されるそうです

 梅棹先生にはもうひとつのロングセラーがあります。梅棹先生の名を世に知らしめた『文明の生態史観』(中央公論社、1967年)です。これは梅棹文明学の金字塔であり、1983年の比較文明学会創立にもつながっています。2006年に開催された大手前大学の大会ではシンポジウム「文明史観を考える」が企画されました。そこには梅棹先生も参加され、「50年前に文明史観の種をまいて、こうして議論されて、いまここに花が咲いた」とコメントし、「いま、日常あんまりない、幸福感を感じております」と感慨を吐露されました。

 もうひとつ、今年は70年大阪万博の50周年にもあたってます。梅棹先生と大阪万博との関係は小松左京さんや加藤秀俊先生らとたちあげた「万国博をかんがえる会」にはじまります。その会で大阪万博の基本理念が練りあげられたことは万博研究者の間で知らない人はいません。いま読んでも色あせないその文章は、文明学的知見と未来学的展望に満ちあふれています。

 「アジアにおける最初の万国博覧会を人類文明史にとって意味あるものであらしめたい。すなわち、現代文明の到達点の指標であると同時に、未来の人類のよりよき生活をひらくための転回点としたいのである。」

 しかしながら、現状はおおくの不調和になやんでいて、解決すべき問題が多いと指摘され、人類の未来の繁栄をひらきうる知恵の存在に期待する旨が述べられます。そして、それをつぎの世代につたえるべく場所と機会を提供するのが大阪万博であると結んでいます。

 次号の『季刊民族学』は民博企画展に合わせて梅棹特集となります。その冒頭をかざるインタビューには今でもお元気な加藤秀俊先生が登場します。どうぞご期待ください。

 11月21日から23日の三連休には比較文明学会の大会が民博で開催され、当財団も主催者のひとつに名を連ねています。そこでは2025年の大阪・関西万博に向けて、そのテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」をめぐる国際シンポジウムが3つ組まれています。こちらも今から予定に入れておいてもらえれば幸いです。

 二つの記念すべきことが重なった本年、はからずもパンデミックになった新種の感染症で出鼻をくじかれましたが、社会的・組織的な意味での免疫抗体をつくるには絶好の機会かもしれません。災い転じて福となす、その気概で当財団も事に当たっていきたいとおもいます。皆さま方の変わらぬご理解とご支援をおねがいする次第です。(2020年3月12日)