理事長徒然草(第1話)
「グローバル・ビジネス人類学サミットに出席して」

デトロイトのウェイン州立大学で4月24日に開催されたグローバル・ビジネス人類学サミットに招聘され、ついでに郊外のヘンリー・フォード博物館も見学してきました。デトロイトではディエゴ・リベラの壁画も鑑賞し、空路乗り継ぎのミネアポリスでは巨大なモールの入口にあった「アンソロポロジー」という名のしゃれたブティックにも立ち寄ることができました。今回は、アメリカの古典的な博物館・美術館を訪問する一方、ビジネス人類学という最新分野の最先端の潮流にも触れたことを報告いたします。

写真1 アン・ジョーダン名誉教授(左)とマリエッタ・バーバ教授(右)

グローバル・ビジネス人類学サミットには国内外から70名ほどの参加者があり、アメリカが中心とはいえ、ヨーロッパから6名、中南米から2名、そして日本からも3名の出席がみられました。日本からはわたし以外に八巻惠子(就実大学准教授)と伊藤泰信(北陸先端科学技術大学院大学准教授)の両氏がくわわり、ビジネス人類学の人脈にうといわたしを補佐してもらいました。サミットを招集したのはアレン・バトー教授(ウェイン州立大学)であり、1984年に同大学で最初にビジネス人類学を教授しはじめたマリエッタ・バーバ教授(ミシガン州立大学)やビジネス人類学の大御所であるビル・ビーマン教授(ミネソタ大学)とアン・ジョーダン先生(北テキサス大学名誉教授)も顔をそろえていました(写真1)。アン・ジョーダン先生とは2009年の国際人類学・民族学科学連合(IUAES)@昆明で面識をもち、2010年に民博で開催した国際シンポジウム「ビジネスと人類学」に招待したこともあって、唯一、気やすく話ができるアメリカの国内参加者でした。

写真2 趣旨説明をするアレン・バトー教授

サミットはバトー教授の趣旨説明からはじまり(写真2)、3つの分科会の概要説明、スポンサー(日立、日産、FJORD、intel、RED ASSOCIATES、WAYNE STATE UNIVERSITY)の紹介とつづき、番号の書かれた紙切れを引いて、分科会に分かれました。わたしは市場動向、雇用動向、見通し調査を議論するグループに当たりましたが、司会者はいるものの、簡単な自己紹介の後は自由に発言する場となり、重要とおもわれる点を記録係がA2くらいの紙に逐次、手書きで書き込んでいくラウンドテーブルのようなスタイルとあって、かなりとまどいました。意見の集約をはかる際も、日本のKJ法とは異なり、意見(異見)を羅列していき、最後に代表者がシンセサイズ(統合)するというものでした。わたしも割ってはいって見解を述べましたが、うまく統合されたのかどうか。それはともかく、次なる段階では、おなじテーマの2つの小分科会が合流し、さらなる議論をつづけた後、全体会議がひらかれ、3分科会がそれぞれ10分ずつ記録紙を壁に貼り付けて報告しました。

写真3 発言するジリアン・テットさん。奥に意見を書き込む紙がある。

昼食をはさんで午後もおなじテーマの分科会がつづきましたが、わたしは「未来世代」と命名された、ビジネス人類学の教育や卒業生の雇用確保などを討議する部会に出席しました。とくにデザイン人類学の教育現場やジャーナリズムの報道現場で活躍する人たちの発言に興味をもちました(写真3)。日本の事情を聞かれた時には、もっぱら八巻さんに対応してもらいました。

15年以上も前にフィラデルフィア大学で社葬や会社墓について話をしたことがありましたが、この分科会に先立ち、そのときの聴講者の一人と再会し、いまでも講義につかっていると挨拶されたときはびっくりしました。また休憩時間にウェイン州立大学でデザイン人類学をおしえる女性講師が親切にもいろいろわたしの質問にこたえてくれたのも収穫でした。

最終討議のセッションでは部会報告のほかに次回開催に向けての議論がありました。その間、Global Business Anthropology Summitの文字が入ったマグカップがくばられ、良い記念品となりました。来年の第2回サミットはニューヨークで開催とのことです。

このような会議のしかたはアメリカでは普通のようですが、わたしにとっては初体験であり、とまどうばかりでした。それを「パズリング」と表現してみましたが、ジグソーパズルのようにピタッとは、はまりませんでした。いずれ総括され報告書になるとのことです。

写真4 アンソロポロジー店に遭遇した「車椅子の人類学者」

 おどろきつづきの結末は、デトロイトからの帰途、ミネアポリスで立ち寄った巨大なモールで「アンソロポロジー」という名の店舗を“発見”したことでした。Anthropologieとつづり、いかにもフランス風のしゃれたブティックでした(写真4)。八巻さんによれば20年も前からあり、AJJ(Anthropology of Japan in Japan)でも報告したというのですが、わたしには初見・初耳でした。そのアンソロポロジー社にはビジネス人類学の卒業生が多数、活躍の場を見いだしているとのことです。個性的なファッション、車椅子でもとおりやすい店舗レイアウトなど、観察・聞き取り・比較などの人類学的視点が生かされているそうです。日本でもネット販売がなされていて、グローバルなビジネスとなっています。

最後に、参加者の一人でフィナンシャルタイムズ米国版編集長をつとめるジリアン・テットさんの記事(「自分の情報を『資産』に」)を4月30日付の日経新聞で見つけたことも書き添えておきます。(2018年5月4日記)