巡回展「驚異と怪異」高知で開催

特別展「驚異と怪異」

開催期間:2022(令和4)年4月29日(金・祝)~6月26日(日) 午前9時~午後5時(入館は午後4時30分まで)※会期中無休【5月3日(火・祝)は入館無料】

会  場:高知県立歴史民俗資料館 3F総合展示室

本展は、令和元年に国立民族学博物館(みんぱく)で開催され、好評を博した特別展「驚異と怪異」の一部を巡回するものです。近世以前、ヨーロッパや中東においては、人魚や一角獣といった不可思議だが実在するかもしれない生物や現象が「驚異」として自然誌の知識の一部とされてきました。また、東アジアにおいては、奇怪な現象や異様な生物の説明として「怪異」という概念が作り上げられてきました。高知展では、みんぱくの資料を中心に独自借用の資料も加え、龍、怪鳥、巨人など世界各地の人びとが創り出してきた不思議な生きものたちを紹介して、人間の想像力の面白さに迫ります。

理事長徒然草(第16話)
「人類学の日」に寄せて

2月の第3木曜日は「人類学の日」です。今年は本日、2月17日がその日となります。アメリカではじまり、世界各地で祝われるようになりました。しかし、日本ではなじみの薄い日であり、かく言うわたしも昨日までは寡聞にして知りませんでした。イェール大学に本部があり民博も加盟しているHRAF(Human Relations Area Files)からの情報に接し、さっそくネットであれこれ検索したところ、およそ次のようなことがわかました。

ANTHRO DAY「人類学の日」は文字どおりAnthropology Dayですが、略してAnthroDayとも称しています。アメリカ人類学会(American Anthropological Association、AAA)が2015年にNational Anthropology Dayとして定めましたが、たちまちWorld/International Anthropology Dayとよぶにふさわしい日となりました。趣旨は「人類学者がおのれの学問を祝い、周囲の世界と共有すること」にあり、大学や職場、コミュニティーなどでイベントを開催し、人類学が何であり、何ができるかをともに考えることにあります。なぜ2月の第3木曜日が選ばれたかというと、幼稚園から大学まで学期中であり、生徒や学生が参加できるからのようです。ただし、HRAFのように今年は2月28日(月)に祝うところもあり、日にち設定には柔軟性があるようです。

本家のAAAは貸出用のアウトリーチ教材を用意していて、教室やミュージアムなどでの活用を後押ししています。他方、大学やミュージアムでは講演会やワークショップなどが開催され、展示もおこなわれています。2017年にはアメリカ以外にも12ヵ国(バングラデシュ、カメルーン、カナダ、エクアドル、エジプト、グアテマラ、インド、イタリア、メキシコ、パキスタン、タイ、トルコ)が参加し、2021年には15ヵ国、244の団体に増えたそうです。もっともコロナ禍にあって、ヴァーチャルな体験が中心となったのはやむをえないことでした。

たとえばイタリアのミラノでは昨年は3日間にわたって3000人の参加者を集め、新しいメディアや気候変動などのテーマで約40の会議やワークショップが開催されました。世界各地の大学やミュージアムでも創意工夫を凝らしたヴァーチャル体験―「場違いなミイラのミステリー」など―がとくに人気を博したとのことです。また、人類学の日にあわせてFacebook、Twitter、Instagramをつかった交流も盛んにおこなわれていて、その件数が表示されていました。

ところで、「人類学の日」はたんなる21世紀の産物ではありません。実は20世紀の初頭にも「人類学の日」と称される国際的なイベントがありました。1904年のセントルイス世界博覧会の期間中におこなわれた第3回オリンピック大会では、その一部として、博覧会の展示などにかかわっていた先住民たちの競技大会として実施されました。そこには4名のアイヌ男性も参加し、アーチェリーや槍投げで好成績を残しました。本稿の主題とは異なるので深入りはしませんが、もうひとつの「人類学の日」があったことだけは指摘しておきたいと思います。

ともあれ、今日の「人類学の日」は人類学という学問の重要性と必要性を人類学のサークルのなかだけでなく、広くまわりの人たちと分かち合う機会としてもうけられました。当財団においても、今後何ができるか、いろいろ知恵を絞っていきたいと考えています。(2022年2月17日)

理事長徒然草(第15話)
シンポジウム「人類・いのち・万博―1970から2025に向けて」をふりかえって

2021年11月23日(祝日、火)午後1時から、日本万博記念公園シンポジウム2021「人類・いのち・万博―1970から2025に向けて」が国立民族学博物館のみんぱくインテリジェントホール(講堂)で開催されました。当財団が主催し、国立民族学博物館、大阪府、公益財団法人関西大阪21世紀協会が共催に名を連ね、公益財団法人2025年日本国際博覧会協会の後援を受け、大阪モノレール株式会社と万博記念公園マネジメント・パートナーズの協力を得ました。会場の聴衆は115名、オンラインの視聴者は161名でした。

開催にあたり、わたしのほうから主催者挨拶として、70年万博の開催地で2025年万博に向けて「人類・いのち・万博」をテーマに未来につなげる橋渡しの機能を担うという趣旨を簡単に述べました。そこで強調したのは次の2点です。ひとつは公益認定を受けた当財団が「地域の文化活動」に資する公益事業を推進していくという決意です。もうひとつは、京阪神の3都市が千里で手をむすびあい、関西全体の国際文化都市化を促進することの意義について、梅棹忠夫(民博初代館長)の発言を引用して言及したことです。さらに、このシンポジウムを端緒とし、毎年、議論を積み重ねていくことも表明いたしました。

登壇者は吉田憲司氏(国立民族学博物館長)、西尾章治郎氏(大阪大学総長)、ウスビ・サコ氏(京都精華大学学長)、山極壽一氏(総合地球環境学研究所所長、前京都大学総長)、井上章一氏(国際日本文化研究センター所長)の5名でした。まず吉田館長が「シンポジウム開催にあたって」という発題をし、それを受けて4名の演者がそれぞれの立場から提言をおこないました。その詳細は『季刊民族学』180号(2022年4月発行)の特集にゆずるとして、ここでは印象に残ったいくつかの点について簡単に報告しておきたいと思います。

まず2025年の万博開催の意義について、①参加国との協働・共創作業の場(吉田)、②大学間のグローバルな共創(西尾)、③ユーロセントリズムではない共創のあり方(サコ)、④ヒト中心ではない「いのち」と「いのち」のつながり(山極)など、ともすれば開催国やいわゆる先進国を中心に企画・推進されがちな国際的な博覧会に警鐘を鳴らしたことが注目されました。その一方、万博自体にオリンピックと比べても訴求力が弱くなっているとの指摘がなされました(井上)。とはいえ、パンデミックにさいなまれている現状を打開し、「いのちかがやく未来社会」をどうデザインするかが問われているのが2025年の大阪・関西万博です。

パネルディスカッションでもさまざまなアイデアが飛び出し、活発な議論が絶え間なく繰り広げられました。ひとつのキー・フレイズは「壁を超える」であったかと思います。①京阪神の壁を超える、②ヴァーチャルとリアルの壁を超える、③オリンピックと万博の壁を超える、④人間と人間の壁を超える、⑤言語の壁を超える、⑥国家の枠組みを超える、等々。そこでの提案には、①都市をつなぐ万博(山極)、②地域をつなぐ万博(吉田)、③博物館がつなぐ万博(吉田)、④関西一円で実感できる仕組みをもつ万博(西尾)、⑤ドバイ万博ですでに始まったハイブリッドなつながり(サコ)、⑥フランチャイズが弱い野球のようなつながり(井上、山極)、⑦万博にe-sportsなどオリンピックを換骨奪胎して取り込む(山極)等々、奇抜なものも含め丁々発止のやりとりが続きました。

パネルディスカッションのファシリテーターをつとめた吉田館長は結びのことばとして、やや冗談交じりに、京阪神に奈良をくわえてその壁を壊さないと国の壁とか言っていられないと述べました。当財団がそうした役割を少しでも担うことができれば幸いです。 (2021年12月13日)

理事長徒然草(第14話)
「川田順造先生の文化勲章と石毛直道先生の文化功労者のご顕彰を祝して」

このたび川田順造先生が文化勲章、石毛直道先生が文化功労者の栄に浴されることになりました。文化人類学にとっては二重のよろこびです。選出理由は川田先生が「西アフリカの無文字社会の調査から『口頭伝承論』という研究領域を開拓した」ことであり、石毛先生の場合は「文化人類学の分野において食文化研究という新たな領域を切り開いた」ことに対するものでした。口頭伝承論にしろ、食文化研究にしろ、いずれも新規の研究領域を開拓したことにあり、フィールドワークを重視する文化人類学として面目躍如たるものがあります。

開拓者精神は、もちろんそれ以外の分野にもおよんでいます。川田先生は「文化の三角測量」という、フランス、アフリカ、日本を定点観測するユニークな方法論を提示しています。他方、石毛先生も環境論・住居論から民間信仰論に至るまで数々のモデルを提唱しています。両先生がこれまでに受賞した賞がそれを如実に表わしています。

両先生はともに愛飲家でもありますが、もう一つ共通点があります。それは文章の達人と言ってもいいほどに、明瞭でわかりやすく、説得力があるだけでなく、人柄がにじみ出るような達意の表現をされることです。教科書などに取り上げられた回数は枚挙に暇がありません。

両先生が今後もますますお元気でご活躍されるとともに、後進のものたちも同様の開拓者精神をもって文化人類学の諸分野を切り開いていければと願っています。

このたびのご受章、誠におめでとうございました。 (2021年10月27日)