第78回 民族学研修の旅 遙かなるビザンツ文明の現在 ─ ─民族と宗教のモザイクの歴史をひもとく

第78回 民族学研修の旅 遙かなるビザンツ文明の現在 ─ ─民族と宗教のモザイクの歴史をひもとく

2011/05/12/~05/25

バルカン地域は古代から東西文明を結ぶ交通の要衝であり、さまざまな文明、宗教、民族がゆきかってきました。長い歴史のなかでヨーロッパと東方世界の接点として、多文化、多民族が共存してきた地でもあります。たとえばひとつの町のなかにキリスト教の教会や修道院、モスク、シナゴーグとなんでもそろうというのがこの地域のおもしろさでもあります。同行講師の解説を聞きながら、ビザンツ文明の意味やバルカンの諸民族、宗教の歴史をひもといていきます。今までとは異なるヨーロッパと東方世界とのつながりが見えてくるのではないでしょうか。
山奥にたたずむ古い修道院やモスクをはじめ世界遺産が数多くのこされているのもこの地域の魅力です。たとえばリラの僧院では、マンダラをおもわせるような美しく壮大な壁画のほかに、かつて巡礼者や修道僧などたくさんの人びとの生活を支えた宿泊施設や台所なども目にすることができます。マケドニアのオフリドは、聖書のラテン語訳がおこなわれ、原始キリスト教が広まった時期の一大拠点の町でした。教会のほかにもヨーロッパでもっとも古い湖であるオフリド湖畔に位置しているため自然と文化・歴史的景観の複合遺産として登録されている美しい町です。ほかにも奇岩群の上に建てられた修道院で有名なギリシャのメテオラ、イスタンブールのブルーモスク、アヤ・ソフィアなど美しく、歴史的な遺産を訪ねます。

また、かつてブルガリア帝国の首都としてもさかえたヴェリコタルノボでは、日本語学科の学生たちに中世の面影を残す街並みを案内していただきます。地元の人が語る「我が町の歴史」を日本語で聞くことができるのはとても貴重な体験になるのではないでしょうか。長い旅の最後の訪問地、イスタンブールに向かう前日はエディルネという町でキャラバンサライ(隊商宿)を改築したホテルに宿泊します。当時の人びとの旅の様子に思いをはせてみたいと思います。そしてイスタンブールでは、東西交易の中心地として繁栄をきわめた都市の魅力、ビザンツ文明からオスマントルコへといたる歴史をあらためてふりかえり、旅をしめくくります。

5月のブルガリアはバラの咲き誇る美しい季節です。古くから世界各地で香水やバラ水の原料として愛されてきたブルガリアのバラ摘みも体験します。また、世界三大料理のトルコ料理をはじめ、ヨーグルトをもちいたブルガリア料理など素朴な地元の味もたのしみましょう。大小さまざまな市場めぐりも予定しています。歴史、そして現在の人びとのくらしにもふれていきたいと思います。


第78回 遙かなるビザンツ文明の現在-─民族と宗教のモザイクの歴史をひもとく 実施報告

2週間で3300キロを移動するという大旅行でしたが、ビザンツ帝国最盛期の領土にはとおく及ばないということを、最終日に訪れたイスタンブールの考古学博物館の展示で目の当たりにすることになりました。旅をしながらこの地の歴史を知るにつれ、現代にまで続く民族の関係やさまざまな問題についてもそう簡単には語れないという思いが強まりました。
参加者の感想を紹介します。

大城順次さん
美しい風景・キリスト教文明(歴史、正教の教会建物、イコン等)・古い歴史と現代に至る民族問題背景を見・知り・考え・ふりかえり、また、地元大学生との交流やおいしい食事、ワイン、ブルガリアの舞踊やベリーダンスの鑑賞、紺碧の青空の下でのボスポラス海峡クルーズなどなど、毎日が楽しさ・わくわく感満載のたのしい研修旅行でした。
新免先生が連日されたバス車中の「特別講義」は、キリスト教の教義や歴史、民族や民族のアイデンティティーの問題、バルカン地域およびヨーロッパで最近起こっている諸問題の歴史的・地理的背景、先進国や大手マスコミの情報操作等々、多岐にわたり時空を超えた縦横無尽なおはなしで、多くの知識を与えていただきました。
この講義からは、無数の理解し思索すべき課題(知的刺激)を与えられたように思います。
そのひとつでも今後自らの取り組みテーマとしてゆければ…と考えています。

武谷要子さん
かの地の国家・民族・文化の複雑な積み重なりにただただ圧倒され、まるでお菓子のミルフィーユをお腹いっぱい食べた感じです。もう一度、先生の推薦図書を読み直し、この消化不良をおさめなければとの思いです。
教会・モスク・修道院と首が”くの字”になりそうな程たくさんの天井をあおぎました。時代により変わる聖者の表情・衣装の技術にも興味はつきず、ふるいイコンの今に残る美しさには感動しながらも、人が信仰に支配された時代、信仰にしか救いを求められなかった時代を考えさせられました。
素晴らしい遺跡に名を残すこともなかった職人や貧しい中から献金したであろう人びともおもいました。

今回、行くことのできなかったバルカンのほかの地域を訪ねる企画も計画中です。 ご期待ください。


コプリフシティッツァの村の様子(ブルガリア)


スコピエの街並み(マケドニア)


オフリド湖畔にたたずむ聖カネヨ教会(マケドニア)