105号 2003年 夏


トリニダードのカーニバル
冨田 晃

特集 カリブ海世界、終わりなき変容

カリブ海世界は、コロンブスの「発見」を契機に奴隷制プランテーションの植民地として形成された。複数の大陸からディアスポラ(故郷離散)してきた人びとが混じりあうなかで形成されたその文化は、当初からグローバル性を帯びていた。「混交」から生まれ、つねに変容し、創造の課程にある文化の現在

カーニバル 陶酔と熱狂のトリニダード  文・ 冨田 晃
華やかな仮装パレード〈マス〉、批評的大衆歌謡〈カリプソ〉とその現在形〈ソカ〉、そしてドラム缶から生まれた愉快な楽器〈スティールパン〉。この3要素が、独立し、あるいは絡みあい、壮大なトリニダードのカーニバルを構成している

カリブ海世界 ディアスポラとクレオールの島じま 石塚道子
飛び石状にならぶカリブ海の島じまは、古来南北の大陸の人びとが出会い、ゆるやかに混交しながら移動していく通路の役割を果たしてきた。しかし、15世紀末以降のヨーロッパ人による奴隷制プランテーション植民地化は、この地域の様相を一変させた。生態系の改変、人間と文化の複雑な混交。カリブ海地域は世界経済システムの内部に組み入れられた最初の周辺だった

精霊たちと交わる瞬間 ハイチのヴォドゥ 佐藤 文則/文・荒井 芳廣
カリブ海の黒人共和国ハイチ。奴隷たちがもちこんだアフリカの精霊信仰がこの地で変容を遂げ、ヴォドゥとなった。ミステリアスでカルト的なイメージの向こうで、ハイチの人びとの生活に根づいた民衆信仰の姿を追う

 

「信」のゆくえ 冷戦後キューバの宗教復興 大杉 高司/写真・長嶋 義明
1989年のコメコン体制の崩壊は、キューバ経済に決定的な打撃を与えた。経済の二重化、価値体系の動揺とともに、サンテリーアとよばれる宗教の復活が進む。その背景にある「信」の物質性とは

新連載 南半球ワイン紀行
「美味しい」オーストラリア

森枝 卓士

その地の食文化との関連で、ワインがある。だから、ワインはおもしろい。もともとブドウなどなかった地域、南半球のワインをたずねる。そこであたらしく生まれたワインから、あたらしく生まれる食の文化を考えたいのだ

アジア系アメリカ人運動と博物館
ニューヨークの南北アメリカ華人博物館

文・園田 節子

「洗濯業に歴史なんぞないわ!歴史なんぞ!」。痩せこけて疲れきった男は、かたことの英語で荒々しく叫んだ。洗濯業はまさに、ニューヨークのチャイナタウンにくらす中国移民たちの「辛酸をなめた」無数の経験の具現だった。コミュニティ問題の解決にむけて、収集、展示、そしてエスニック運動にとりくむ博物館活動の報告